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【サンソン家回顧録】Amazon kindle unlimited おすすめの一冊。

前回の記事で【夜見師】をご紹介したように、

Amazon  kindle unlimited でかなりの数の本を最近読んでいます。

1ヶ月間のお試し期間中に、0円で読めるものがあって面白そうなものを探しています。

基本的に紙の本が本当は好きなんですが、

スマホで手軽に読めて、使ってみたら付箋脚注年表目次機能などが

非常に便利で、辞書機能まで付いているのはなかなかすごい。

あとこの章の読み終わりまで何分読了まで何時間とかが、タップするとページの下に出るのも良かったです。

ただ1ヶ月で退会すると、無料ダウンロードした分は読めなくなってしまうようです。

長時間夢中になっていると目にすごく疲れが出てしまうのでご注意です。笑

私のように読み始めたら読了まで他の事が手につかなくなる人間にはかなりヤバめです。

 

 

 

そして今まで読んだ小説よりはるかに衝撃だったのがこの【サンソン家回顧録】

 

フランス革命とかに今まで全く興味がなく、

「ギロチンとか、恐ろしい時代だったんだなぁ」としか思ってなかったんですが、

蝋人形で有名なマダムタッソーが、

実際にその技術を買われてルイ16世の妹のエリザベート王女の教師として

ベルサイユ宮殿の王女の部屋の隣に住み、

王の一家と夕食を共にするような関係でありながら、

革命政府の命令により、一家が断頭台の露と消えた後、

その首級を墓場から持ち出して蝋人形として作製したという

衝撃の事実を知ってから、いろいろ調べるようになりました。

 

ルイ16世の妹、エリザベート王女 東京富士美術館

ルイ16世の妹、エリザベート王女 東京富士美術館

 

実はずっと以前から、

人間の首が斬られたとき、一体どの瞬間に死が訪れるのだろうか?

という恐ろしくも生命活動が死を迎える瞬間というものに、

ずっと疑問を持っていたこともあるかと思います。

 

 

これはその時代の生き証人とも言える処刑人、

4代目シャルル・アンリ・サンソン(1739年2月15日〜1806年7月4日)の残した回顧録を、

孫の6代目アンリ・クレマン・サンソン(1799年〜1889年1月25日)

処刑人を免職になった後に出版した驚くべき本です。

事実がさまざまな流言や嘘や虚構に塗れるのは今も昔も同じですが、

その現場に立ち会った本人が、人に見せるためにではなく書き綴った家族の年代記であり、

限りなく真実に近いであろう稀有な記録だと思います。

 

 

上巻は筆者の最後のサンソン家処刑人、6代目アンリ・クレマン・サンソン

が免職通知を受け取るところから始まります。

有名な激動のフランス革命を体験した4代目シャルル・アンリ・サンソンを祖父に持ち、

祖父や父のような職業への使命感を持ち得ず嫌悪感に苛まれたアンリ・クレマンは、

財産も使い、息子も事故で失ってしまう中、ようやく先祖から続く「呪い」から解放されて、

母と語り合うシーンが印象的です。

 

 

サンソン家初代の処刑人となったシャルル・サンソン・ド・ロンヴァル(1635〜1707)が、

どうやって成長し、なぜその職業についたのかという物語もまた驚きで、

好きになった女性(マルグリット・ジュエンヌ)が実は処刑人の娘で、

そのつらい仕事を続ける父(ピエール・ジュエンヌ)をひとり見捨てることを拒んだために、彼が処刑人の仕事を継ぐことになったのが、

この7世代にわたるサンソン家の始まりとなったのです。

 

上巻は初代サンソンの物語から始まり、ルイ16世の処刑までなのですが、

小説をはるかに超えるような事実の連続で、

全ての章が驚くようなことばかりでした。

 

 

 

処刑人の義父(ピエール)の助手としての最初の処刑で、

罪人の関節を鉄棒で殴り潰すこと命じられた彼は卒倒してしまい、

民衆から野次を飛ばされたそうです。

また最後まで正気を保ち、前を向き、優雅に処刑台に口づけをしたティケ夫人の

首を2撃でも落とせなかった初代シャルル・サンソン・ド・ロンヴァル

人間を処刑するという仕事に苦しみながらも、

パリの処刑人に着任した彼が処刑人の公的屋敷に住むことで、

一時保管された遺体から筋肉や関節などの解剖学を研究し習得したこと。

そこからこの家系は貧しい人たちに治療を施すようになったこと。

けれど快活だった青年は人から恐怖の目で見られ、

だんだんと陰鬱な性格に変わっていき、愛したマルグリットも早くに死別してしまいます。

晩年は息子に職を譲り、再婚し郊外に隠棲しても、

血を一滴見るだけで恐怖により激しい神経性の発作を起こし、

その様子は見るものを戦慄させました。

 

 

 

ギロチンが発明されるまでの処刑方法は、

貴族はその勇気と品位のために立ったままでの剣による斬首

下級市民は絞首刑、その他拷問火刑そして刑車

立ったままでの斬首は非常に難しく、受難者本人の気力と勇気、

処刑人の腕と優れた剣がなければ、まず一撃での成功は望めないこと、

そして刑車での想像を絶する残酷さ。

 

脚責め刑具という道具で脚をズタズタに引き裂かれる拷問を受けた後、

四肢を広げるように板に固定され、それぞれの関節を生きたまま粉砕されるのですが、

もっとひどいのはその前に身体中の肉をえぐられ、

その穴に熱した鉛や硫黄を流し込むという筆舌に尽くし難い責め苦がありました。

その後馬に四肢を引かせて、上手くいかずに四肢に切れ目を入れたという記述までありました。

壮絶過ぎます・・・

 

ルイ15世を襲ったダミアンという男は、王暗殺の大罪人として

右手を焼かれた上この刑を受けるのですが、

最後の腕が1本になってもまだ生きており、茶色だった髪が真っ白になっていたそうです。

この忌まわしい時代遅れを最も嘆いたのは暗殺されかかった本人のルイ15世であり、

何が起こったのか聞かされた王は、居室に戻ってベッドに身を投げ、

子供のように泣いたと記されています。

 

初代サンソンは罰される危険を犯し、四肢を粉砕される前に隠し縄という細い縄で、

すばやく罪人とされた人の首を絞め、この最も残虐な苦痛から救ったことがあったそうです。

 

 

この上巻で最も救われたのは、その刑車廃止されることになった最後のケースで、

無実の罪のその青年を救おうと仲間と民衆が取り囲み、

処刑人を傷つけることなく自ら「刑を受ける」と抵抗する青年を肩に担ぎ上げ、

処刑台の全てを叩き壊して積み上げて、火を放ったという事件が起こった事でした。

 

 

多くの処刑のあまりの残酷さと処刑人の負担、

受難者たちを平等に痛みを感じさせずに素早く終わらせるために、

ギロチンが考え出されました。

 

ギロチンの実際の発明者は実は医師のギヨタン氏(発案者)ではなく、

シャルル・アンリ・サンソンの音楽仲間が彼のために設計図を描いたこと、

そしてサンソンルイ16世と2度会っており、

その2度目の会見で、ルイ16世自らギロチンの刃を三日月型から斜めのものに変えていたこと。

その7ヶ月後に自らがその刃にかかって死ぬことも知らずに

 

 

 

もうここまででも頭と胸がいっぱいにならないですか?(泣)

 

4代目シャルル・アンリ・サンソンは、サンソン家の中でも特別な存在だったようです。

兄弟姉妹は10人おり、男性は皆家業を継ぎ各地域を任される処刑人となっていて、

召使が本家に集まるそれぞれの兄弟を地域の名前で呼んだのが、

「ムッシュ・ド・パリ」シャルル・アンリ・サンソンの代名詞になったようです。

本家の総元締めというべきパリの処刑人は、15歳で家督を継ぎ、

背が高く強健でほとんど助けなしで父の代役を務めることが出来ました。

 

非常に眉目秀麗で、音楽や文学、高い教育を受け、

さまざまな知識に造詣が深く、その服装からも若き青年貴族としか見えなかったそうです。

そのため食事に誘ってきた公爵夫人から訴えられ、

その理不尽な差別に、弁護士がつかなかったサンソンは、自らの弁護を行います。

そしてその後も彼は処刑人の差別を無くそうと手を尽くし、

死刑廃止を望んで訴え続けたそうです。

 

たくさんの有罪無罪の人たちの最後の姿、

それだけでも心が苦しくなるような話ばかりなのですが、

驚くことにこのシャルル・アンリ・サンソンの初恋の相手が、

のちのルイ15世の側室で、若き王太子妃マリーアントワネットとベルサイユで争ったという

有名なデュバリー夫人(マリー・ジャンヌ・ド・ヴォーベルニエ)の若い頃だったそうなのです。

 

それも驚くべき出会いなんですが、

後年フランス革命でイギリスに亡命していたデュバリー夫人は帰国した際に捕まってしまい、

処刑台に登った後も逃げ回って命乞いをし、

3度目の邂逅でその処刑を監督することになったシャルル・アンリ・サンソンは、

「すべての人が、彼女のように抵抗し、命乞いすればよかったのだ。

 そうすればもっと早く、このようなことをやめようと皆が思っただろう。」

と言ったそうです。

 

 

下巻フランス革命の嵐の中、

マラーを暗殺した若きシャルロット・コルデーの事件の詳しい内容から、彼女が最後の瞬間まで怒りも動揺も示さなかった様子や、

王妃マリーアントワネット王女エリザベートの死、

そして信じられないような恐怖政治で毎日大量の人々の処刑を行った

ロベスピエールサン・ジュストなどが追いつめられ、

今度は自分たちが処刑されていく様子が多くの人名とともに記録されています。

 

 

この後フランスはまた王政が復古したり、

ナポレオンが皇帝になったりとたくさんの激動の波を越えて

現在の姿になっていくのですが、

この稀なる記録を読むことによって、

今まであまり興味のなかったヨーロッパの歴史というものが、

初めてリアルに迫ってきました。

 

淡々と書かれた穏やかな筆致によって、

この激動の時代に苦しみながらも家族を愛し、

処刑人という必要とされながらも忌み嫌われる仕事をしながらも、

幾多の信頼できる友人や、罪人とされる人たちにも真摯であろうとした一族と、

彼らの体験した出来事を垣間見させてもらったことは、

今までにない衝撃として私の心に残りました。

懸命に生きた彼らの人生と運命は、

今生きている自分の人生にも連綿と繋がっているものだと強く感じました。

 

この2冊は読むことが出来る人であれば、

一読をお勧めしたい衝撃の本です。

現在kindle unlimitedで上下巻とも無料で読むことが出来ます。