おきらくごくらく。

山と自然と不思議。日常のあれこれの雑記ブログ。

「チ。地球の運動について」を春分の日に見る。

チ。地球の運動について

 

なんと絶対に見たくなかったこの作品を、春分の日に一気見してしまいました・・・。

見たくなかった理由は、

一度TVをつけた時に偶然チラッと見た事があって、

それが拷問シーンだったためです。

ダメ絶対。

拷問あり得ない痛い耐えられない見たくない・・・。

 

それでも見る気になったのはなぜだかよく分からないんですが、

たまたま先日の春分の日に流れてきたから、というのがいちばん近いかな。

結果一日で、全編通して一気に見てしまいました・・・。

 

 

感想はなんて言ったらいいのか、

何回か見て咀嚼しないと上手く言葉に出来ない感じなんですが、

とにかく衝撃でした・・・!

 

個人的な経験で、たくさんの山のたくさんの星空を見てきたんですが、

過去強烈に感動した星空がふたつあって、

それが日本の笠ヶ岳とペルーの山岳地帯でみた星空なんですが、

このアニメの星空は、それを思い出させるような、

星空がさまざまな色を持って描かれていて、

暗闇の中で無数の星が生命に満ち溢れているように動き、

きらきらと瞬いていて、見ていると気が遠くなるような、

そんな星空にそっくりでした。

とにかく美しい・・・・。

 

 

チ。地球の運動について



 

チ。地球の運動について



 

美しい星空と「星々と同じにこの地が動いてる」ことに感動する登場人物たち、

普通に暮らすにはまったく何の関係もないような

その宇宙の真実に近づこうと生命をかける、

それぞれ違う思想や哲学を持つ人たちの偶然で必然の出会いが繋がっていく・・。

 

特に心に残ったシーンがあるのですが、

代理決闘を生業としていたオクジーに、

「字が読めるとはどういう感じなのか?」

と聞かれたヨレンタが上気した顔で

 

「文字は、まるで奇跡ですよ。

 あれが使えると、時間と場所を超越できる。

 200年前の情報に涙が流れることも、

 1000年前の噂話で笑うこともある、そんなの、

 信じられますか?

 私たちの人生は、どうしようもなくこの時代に

 閉じ込められている。

 だけど文字を読むときだけは、

 かつていた偉人たちが

 私に向かって口を開いてくれる。

 その一瞬、この時代から抜け出せる。

 文字になった思考はこの世に残って、

 ずっと未来の誰かを動かすこともできる。

 そんなの、まるで・・・、

 奇跡じゃないですか!?」

 

この言葉に、

自分が当たり前のように字や言葉を子供の時から学べる環境に生まれ、

そのお陰で知ろうと思えば千年前の源氏物語を読むこともできて、

さまざまな時代やさまざまな世界の人々の経験と思考を

知ることが出来ることの恵みを、ハッと突きつけられたような気がしました。

文字はあらゆる知識をあっという間に世界中に伝播し、

いちど開放されればその流れは止める事は出来ない。

言葉と文字は、実は人類を他の生き物とは違う進化に導いた

偉大なものだったんですよね・・・。

 

 

f:id:nekosippona:20250324165411p:image

 

 

そして文字を学ぼうとするオクジーに

「凡人が文字など学ぶ必要はない。

 この世の中が世迷いごとやたわごとで

 溢れかえって収拾がつかなくなる。」

というバデーニ。

すごい差別発言ですが、SNSの現状をみれば

間違ってるとも言い切れない・・・。

 

私がいちばん好きだったのはオクジーの変化です。

それぞれの登場人物がそれぞれの経験と思想によって地動説に心を動かされ、

行動していくのですが、

この世に絶望感しかなかったオクジーが、

文字さえ読めずなんの知識もなく、

強さを持っているのに自信もなく、代理決闘士の同僚から地動説を知り、

生まれたときから正しいとされ、

自分を縛り付けていた常識や神の教えとされるもの、

そして教えの通りにこの世は地獄とするには

美しすぎる・・・

 

実は今まで信じていたことがそうではないという、

強固な意識に地動説と周りの人々によって風穴を開けられたことで、

やがて問いを繰り返しながら「この世は美しい」という生きる意味を見出し、

そのためだけに恐れていた死『地獄』を受け入れる。

そしてバデーニと共に迎える衝撃の死。

 

結果的にオクジーの書いた文章が、

地動説に人々を動かす可能性のある重要な鍵となっていくとは・・。

その内容は明らかにされないのですが、

それはたぶん地動説の与えてくれた感動を伝えるもの。

 

 

金星が満ちているのを確認して、

人生をかけて天動説を完成させようとしていた

老いたピャスト伯が自分の研究と共にくず折れるのに対し、

「真理とは、究極に無慈悲で平等。」

と伝えるバデーニ。

そしてここでも思い出す、最初に12歳のラファウが言い放った、

「不正解は無意味を意味しない」という言葉。

 

積み上げてきたもの、

たとえそれが間違っていたとしても

それは無意味ではない。

 

 

私は哲学も天文学もほとんど知らないですが、

この世の摂理や仕組みにはもっとも興味があり、

どんなひどいことでも真実なら知っておいた方がいいと思っています。

人にはぜったい強制しませんが。

 

命をかけられるほどの感動や、

やりたい事があるのは幸せだ、

「人は自分の特性を生かしている時が、

 いちばん自由で、幸福だ」

 

 

地動説という異端に取り憑かれた人間が時折現れるのはなぜか。

人間の中には真実を知りたいという、

この世の真理を求めるものが存在するから。

それこそが知。

 

チ。地球の運動について

 

この作品は感じること、考えることがありすぎるのですが、

最後に全ての人々が、この時代を作り上げたのだというセリフがありました。

今を生きる私たちすべても、今この時代を作っている。

 

 

youtu.be

 

1年前の作者魚豊さんのインタビューで、

ちょうどアニメ化が決定した時のものらしいんですが、

「知性と暴力は近しい」という発言に、

再び青年となって現れたラファウの意味が

少しわかったような気がしました。

 

この作品は自分の好みのアニメでは決してない。

でも最後まで見ずにはいられず、

考えずにはいられず、

気づいたら深く自分のなかに登場人物たちが根付いてしまう、

そして衝撃や感動、人知を超えたこの宇宙のしくみと運動、成り立ち、

そこで作られた人間というものが何を求める生き物なのか、

自分の能力を全開にして生きることこそが、

その人の幸福と自由を感じられる事なのだと、

よく言われるこの事を

まったく違う形で改めて突きつけられたのかも

知れません。

 

最後に出て来た青年ラファウは、

最初出てきた、「この世の美しさのために自らを犠牲にした」少年から、

「この世の美しさのために他人を犠牲にしても構わない」

という人間として描かれました。

犠牲にするのが自分であろうが他人であろうが構わない。

「知と暴力は似ている」

という作者の言葉の具現化のように。

 

 

チ。地球の運動について

 

 

 

youtu.be

 

主題歌「怪獣」を作って歌っているサカナクションの山口一郎さんは、

2年間うつ病で活動を休止している中、この歌詞をすごい数作っていたそうで、

アニメの内容とも相まって、歌声も歌詞も曲もとても深みを感じます。

アニメが完成して配信された時も、

フルバージョンは出来上がっていなかったそうなのです。

 

魂のこもっているような、非常に印象的な素晴らしい曲だと思います。

余談ですが、サカナクションのファンの方々は魚民と呼ばれているのだとか。

いいですね

 

最後に「チ。」は4月から再放送されるそうです。

今度は逃げずに絶対見ます。

 

 

youtu.be

 

エンディング「アポリア」ヨルシカ

 

 

しかし、この作品の作者は魚豊さん、(なんと27歳)

主題歌はサカナクション。

 

魚の時代がやってきたのか・・・・?