梅雨明け前の7月の前半。
去年はコロナで全面登山禁止になっていた富士山をめぐる旅を
ご案内しに行ってきました。
この3日間は雨の予報で、
数日前には熱海で土石流が発生しているほどの大雨。
今回は珍しく静岡側から向かいます。
多くの人は富士山はスバルライン5合目から登って、
「富士山は登るもんじゃない、眺めるものだ。」
などと思うらしいのですが、
今回は富士山を包括的に見るためのちょっとした入り口になるような山旅です。
よくお話するんですが、
富士山は周りに豊かな水を恵む「水の山」。
でも富士山自体には一滴の水もありません。
この忍野八海は、実は富士山を語るときに、
なくてはならない存在です。
これほど人のいないこの場所を、初めて見ました。
普段はあまりに人が多いので、案内らしい案内はできないほどです。
コロナ禍と言われる今年は、外国からの観光客もおらず行きどきだと思いました。
忍野八海にある浅間神社。
本殿裏に、巨大な御神木が何百年もじっと立っています。
忍野八海の外れにありながら、忍野八海を北斗七星に例えて
もっとも重要な北極星の名を冠する神聖とされる湧水池。
ここまでくる観光客は少なく、
この日は自分たち以外にまったく会いませんでした。
昔富士山に登る富士講の信者たちは、
ここや白糸の滝、人穴などで身を清め、
精神を整えてから登山に臨みました。
翌日の富士山は、江戸時代から盛んに登られてきた樹海続きの
吉田口から五合目を目指します。
1964年の前回のオリンピックの年、五合目までのスバルラインが完成し、
そのため廃れてしまっていた古道です。
最近は富士登山競走などもあり、ここを登る人が増えてきたおかげで、
廃止されていた馬返しまでのバスが復活しました。
この奥に、昔からの富士山の入り口があります。
ここから馬返しまで8キロぐらいありますが、
中の茶屋まで車でショートカットします。
富士山には数え切れないぐらい登っているのですが、
冬に単独でよく登りに来ていて、
12月31日の晩に終電で富士吉田駅(現在は富士山駅)につき、
凍った道を馬返しまで歩いてそのまま山頂に向かい、
朝7時ぐらいに山頂について、そのまま下ってくるというのをよくやっていました。
あとはその前後に樹海の洞窟に入ったり。(笑)
おもしろい話もたくさんあるので、
ガイドするときにいろいろお話しています。
馬返しから登り始めるとすぐ、鳥居を守る狛猿がいます。
目を止める人もほとんどいないのですが、
富士山の神様、絶世の美人と言われる
コノハナサクヤヒメの御眷属がこの猿なのです。
昔はものすごく荒れた道だったのですが、
昨年特に手が入ったのか、非常に登りやすい良い登山道になっていました。
富士山二合目の御室浅間神社。
昔はここから先は女人禁制だったそうです。
私が来始めた頃はまだこの宮はしっかり床も天井も建物の形を保っていて、
中で寝ることも出来ました。
奥に石造りの奥宮があります。
もうしばらくしたら、倒壊してしまうでしょう。
だんだんと展望がのぞめるようになって来て、
溶岩の河床やいくつもの小屋や茶屋の跡を通って、
五合目の佐藤小屋に到着です。
この小屋が、ただひとつの富士山の通年営業の山小屋です。
佐藤さんも奥さんも変わりなくお元気でしたが、
昨年に続き今年のコロナ下における状況によって、
まだ予約がまったく入っていないとの事でした。
今年は本当に富士山は登るのに最高のタイミングだと思います。
空いている上に、昨年登山禁止だったため山自体がとてもキレイですし、
小屋も昔のような詰め込みは行いません。
その代わり、緊急避難的な小屋の利用はより厳しいので、
予約していなくての宿泊は、かなり難しいかもしれません。
泊まれても、予約客と同じ棟には入れなかったりするようです。
何度見ても、素晴らしい展望です。
この日は目指すのは、最も古い富士山の山頂です。
スバルラインの終点、人で賑わう五合目の土産物店の奥に、
小御嶽神社があります。
実はここを訪れる人は少ないのですが、
富士山が今の高さになるまで三回の大噴火で段階的に成長したと言われていて、
その最初の山頂がここなのです。
日本中の富士講の信者さんたちは、ここを目指してやって来ます。
一体どうやって、昔の人がそのことを知っていたのか不思議です。
お宮の横の接待所で、美味しいコーヒーや甘酒や富士山サイダーを飲みながら、
他からは見えない景色が見えますので、ぜひ寄ってみて下さい。
実はこの小御岳神社の鳥居のところからみる富士山頂が、
五合目からいちばん美しく見えるんです。
ほとんどの人が気づかず、お土産やさんだけ寄って帰ってしまいます。
私は必ずここでお茶するのですが、
神社の方がとても残念がっておられました。
子だくさんの白鳥の家族を見かけて近づいて写真を撮ってたら、
このあとお父さん白鳥(たぶん)にシャーと怒られて突っつかれてしまいました・・。
3日目の最後は、富士山から流れ出た溶岩で作られた深い森、
青木ヶ原樹海と洞窟です。
富士山の作り出す湧水と深い森、
それを全部含めてようやく富士山の姿が見えてくると私は思っています。
いつもガイドしていた自然洞窟ではなく、
今回は観光洞窟なのですが、それでも十分とても面白い体験ができます。
一年中溶けることのほぼ無い純粋な氷。
樹海の成り立ちや動物、実際に迷うという体験や、
樹海で迷ったらどうやって抜けたらいいのか、
富士山の一部としての樹海と洞窟を体感してもらいました。
この3日間、予報を裏切ってなんと行動中は一滴も
雨に降られませんでした。
樹海は特に、日差しと木漏れ日があるかないかで
非常に印象が違うのです。
この日はとても美しく、気持ちの良い風と鳥のさえずりの中で、
皆さん今まで持っていた印象とぜんぜん違ったとおっしゃっていました。
これはGoogle マップで見た富士山なんですが、非常に素晴らしい衛星写真です。
冬はちゃんと雪山になっているんですよ。
今回通ったのが右上の星マーク。
北から西にかけての森が、青木ヶ原樹海と呼ばれる場所です。
右下に見える黒いところが、宝永火口と広がる溶岩流です。
今から314年前の宝永の巨大地震、
現在心配されている南海トラフの700kmに渡る大地震が起こった
その49日後に、富士山の脇腹から大噴火しました。
巨大地震と津波と噴火、
この世の終わりと思うほどの災害だったと思います。
青木ヶ原樹海の中でも、噴火口を発見したことがあります。
必ずしも噴火は山頂からではないのです。
たくさんのことを教えてくれる富士山と深い森。
世界でも他にはない絶妙なバランスを保つその場所に、
皆さんもご縁がありますように。