モズの鳴き声を聞いたことってありますか?
いろいろ面倒なことが多い世の中、ちょっと疲れちゃった人を誘って
矢切りの渡しで舟に乗って、しばらく散歩して
ふたりで立ち食いなんかしながらブラブラして、
ふときれいなさえずりに耳を取られて、
どこにいるのかなあって探したら、
電柱のてっぺんで、高らかにずううっとっずっと鳴き続けていました。
誰かに呼びかけてるのかと周りを見ましたが、
どうやら縄張りを主張しているらしい。
モズはとても不思議な鳥で、
百舌とも書かれるのですが、他の鳥の鳴き声をよく真似するみたいです。
大きさはスズメよりちょっと大きいぐらい。
よく見るとずんぐりしたフォルムが愛らしく、
こんなに小さいのに猛禽の雰囲気を持っています。
気がつくと枝の上に止まって、じっと何かを見ていたり、
トカゲや虫を枝に突き刺して「百舌の速贄(もずのはやにえ)」を
行ったりします。
私がこの鳥をとても好きになったのは、
宮本武蔵の名画、【枯木鳴鵙図(こぼくめいげきず)】が
中学時代から最も好きな絵だったからでもありました。
それが宮本武蔵という伝説の剣豪の絵だと知って、
かなりなショックを受けました。
こんな静かで強くて見事な絵を描く人だったなんて。
そしてモズが止まる枝を下から一気に描き上げているという点についても、
子供心に真似をして一筆で枝を描こうとして、
簡単に見えて実は全然そうじゃない・・・・!!!
ということに初めて気が付きました。
あのイカツイ肖像画からは想像もつかない、
天然自然の中にひとりそこにあるいのちの姿を、
二度と手直しの効かない墨で一気に描き上げる力と繊細さに、
とても複雑な気持ちになりました。
あの絵は決して誰にも真似の出来ないものです。
絵ではなくて、
あれはたぶん【境地】なんだと思います。
誰の描く絵も、その人の境地が現れる。
境地が先にあり、それが形をとって現れる。
心が先に動かなければ何も現れない。
そういうものなんだと、改めて感じています。